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今夜もアリスは、ベッドの上でバクさんにお話をせがんでいます。
バクさんというのは、アリスの体ほどもある大きなぬいぐるみの名前です。
本当はオオアリクイのぬいぐるみなのですが、アリスもバクさんもあまり気にしていません。
アリスはバクさんを夢を食べる動物だと思っていて、バクさんも自分は似たような動物だからいいか、と思っているからです。
とにかく、アリスは眠れないと、バクさんにお話をせがむのです。
今夜もバクさんは、そんなアリスにお話を聞かせようとしています。

バクさん「今日も眠れない?」
アリス「うん」
バクさん「何か変わったことでもあった?」
アリス「カラスを見たの」
バクさん「カラス?」
アリス「そう。森の入口でね、誰かを待っているみたいだったの」
バクさん「そうか。それはカモメを待っていたのかもしれないね」
アリス「カモメさん?」
バクさん「そう。昔ね、カラスとカモメは仲良しだったんだよ」
アリス「そうなんだ?」
バクさん「それじゃ、今夜はその話をしようか」

第四話「カラスとカモメ」

その昔、森の中にカラスが住んでいました。
その頃のカラスの羽は白く輝いていて、みんながカラスに憧れていました。
頭のいいカラスには友達のカモメがいました。
カモメはいつもカラスといろいろな話をしていました。
カラスとカモメはとても仲がよかったのですが、どちらが森の中を良く知っているか?という話になるといつも喧嘩になるのでした。

カラス「キミは冬にはいつもこの森からいなくなるじゃないか。それなのにこの森の事をボクよりも知っているっていうのはおかしな話だよ」
カモメ「冬にいなくなっても、ボクはキミよりもいろんな事を知っているよ」

こんな感じでいつも言い争いを続けていました。
そんなある日、カラスはカモメにこう言いました。

カラス「この森の中を良く知っているのなら、ここはひとつかくれんぼで勝負をしようじゃないか」
カモメ「かくれんぼ?」
カラス「そう。どこが見つかりにくいかを知っているかどうか。それが森をよく知っていることにならないかい?」

カモメは少し考えましたが、カラスの提案を呑むことにしました。

カラス「そうだ、ただかくれんぼをするだけじゃ面白くない。もし、負けたらこの森から出て行くというのはどうだい?」

カモメも、さすがにそれは、と思いましたが、後には引けません。結局、カラスの言う通りに負けたら森を出て行くことになってしまいました。

まずはカモメが先に隠れることになりました。
カラスはカモメが隠れると、森の動物たちにカモメが失敗した事を大げさに話して聞かせました。
カラスの話を聞いた、噂好きのリス達が、カモメの失敗した話をあちこちで噂しはじめます。
カモメの失敗した話はあっという間に森の動物たちに広まってしまいます。
そんなこととは知らないカモメは樹の穴に隠れていましたが、どこからか自分の失敗談を笑いながら話している声が聞こえます。
カモメは、なぜそんなことを森のみんなが知っているのだろう?と疑問に思いながらも、カッとなって飛び出してしまいました。

カモメ「おい! なんでボクのうわさ話なんかしているんだ?!」

その途端、空からカラスが降りてきてカモメの後ろに立ちました。

カラス「カモメ、みーつけた」

次にカラスが隠れる番です。
カラスは自分の白い身体に絵の具を塗って真っ黒な姿になりました。
カモメがいくら探してもカラスは見つかりません。
カラスの姿が白だとばかり思い、白い鳥を探していたのですから。
やがて時間が経ち、約束の時間を過ぎてしまいました。
カラスは言いました。

カラス「ボクの勝ちだね」

カモメは約束通り森を出て行くことになりました。
それをあまりにも可哀想だと思ったリスは、自分達の噂話によってカモメが負けてしまったこともあって、森の女神さまへ相談しに行きました。
カラスは呼び出された女神様に向かって言いました。

カラス「勝ったのはボクですよ」
女神「ひどいやり方で勝ったそうですね」
カラス「ボクは頭がいいから、それを使っただけです」
女神「自分の姿を変えてでもですか?」
カラス「さぁ? 何の事でしょう?」
女神「あなたの巣に、黒い絵の具があったようです」

女神の手にはカラスが使った黒い絵の具がありました。

カラス「まさか。ボクが自慢のこの白い身体を黒くしてまで、かくれんぼに勝ったと思っているんですか?」

女神はカラスの羽を上に持ち上げました。
カラスの羽の下には黒い絵の具が少し残っていました。

女神「あなたは私に嘘をついてまでも、自分が悪者になりたくはなかったのですね」
カラス「誰だって自分が悪者になるのは嫌じゃないですか」
女神「嘘をついた罰を受けなさい」

女神様が魔法の杖を振った途端、カラスの姿は真っ黒になってしまいました。

女神「カモメがこの森に帰ってくるまで、あなたはこの真っ黒の姿のままでいなさい」

カラスは自分の姿が真っ黒になったことを驚き、泣きながら森の周りを飛んでカモメを探しました。
けれども、カモメは二度と森に帰る事はありませんでした。

こうして、カラスは真っ黒な姿に、カモメは海に住むようになったんだよ。
ん?アリス?
おーい、アリス。
なんだ、また眠ってしまったのか。
今度こそ最後まで聞いていると思ったんだが。
まったくもう、しょうがないなぁ。
まぁ、いいか。
私も寝ることにするかな。