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「久しぶりだね」

俺はグラスを棚から取り出しながら彼女に言った。

「えぇ」

彼女は微笑みながらソファに座ってくつろぐ。

「何年ぶりだろうな」
「そうねぇ、何年ぶりくらいかなぁ」
「缶ビールしかねぇな……」
「うん、いいよ」
「えーと、あれは高校の超自然現象研究会以来だから6年になるかな」
「7年じゃないっけ?」
「そうか?」
「うん……」
「まぁ、いいけど」

冷蔵庫から取り出した缶ビールとグラスを彼女の前に差し出して、俺も彼女に向かい合って座る。

「憶えているか?」
「何を?」
「あの時さ、2年の頃だったかな。降霊したろ?」

俺はその時の事を思い出して苦笑する。

「ああ、あれね」

彼女も思いだして笑った様だった。

「あの時は、確か、部長が霊媒だったな」
「そうね」

そこで俺は何か物足りないな、と思ってチョコレートを冷蔵庫から取り出してくる。

「ジャンケンで負けた部長があんまり逆らうんで、俺達がイスに紐でくくりつけてさ……」
「うん……」
「でも、あの時、ラップ音が鳴った時は皆黙ってしまって、2度目が鳴った時には……」
「……」
「部長ほどいて、皆一目散に逃げたもんな」
「フフフッ」

彼女は笑い声を漏らして外をチラリと見た様だ。
俺もつられて外を見る。
初夏の夜空に揺れるレースのカーテン越しに大きな円を描く月があった。

「後にも先にもあれっきりだったからな」

俺はその月を眺めながらグラスに入ったビールをあおった。
しばらくの沈黙。
明かりを消してあるので、動くレース模様が月光の中、妖しい影を落としている。

「ああ、そうだ。まだ、あの時の五芒星があるぞ」
「へぇ……」

俺はそう言って立ち上がり、窓側の壁にある大きなガラス張りの書斎棚に向かう。
その五芒星は、俺が高校に入ってすぐ自分でデザインして作ったものだ。
紫を主色に黒の線の部分を銀色、文字は筆でラテン文字が書かれていた。
なかなかのできだったのでラミネートにパックして棚に飾っておいたのだ。
と、何か異様な違和感が体を貫いた。
なんだ? これは……?
俺は思わず振り返った。

「どうしたの?」

彼女の優しく、呟く様な声がした。

「いや……」

何も変わっている所はない。
気のせいだったのだろうか。
彼女の落ち着いた声によって、胸騒ぎを抑えこむ形になった。
俺は再び五芒星を取りだそうと棚の方に向き直った。
彼女の声は昔からそうだった。
いやに自信に満ちていて、聞く物をも安心させてしまう。
態度も、行動も。
そして……顔?
俺は彼女の顔を思い出せない事に気付いた。
再びはじける違和感。
今度は、その違和感の理由を見て取った。

「あっ……!!」

俺は慌てて後ろを振り返る。
彼女はそこにいた。
再び棚のガラスに眼をやる。
ない。
先刻からあるべき筈のそれがないのだ。
ガラスに映っている筈の彼女の姿が……。

「お、おまえは……誰なんだ?」

建て付けの悪いこの部屋の扉は俺が入って来てから一度も鳴らなかった筈だ。
それまでは……
今まで古い友人だと思っていた彼女は……。
俺はぎこちなく後ろを振り返った。
彼女は消えていた。
テーブルの上には缶ビール、チョコレート、そして……
俺が飲んでいたビールグラスだけ……。
淡い月光が部屋を照らす。
レースのカーテンを揺らす風が強くなり、庭の枝をざわつかせる。
まるでこの俺を嘲りわらう悪魔の様に……。
軒下に吊るしてあった風鈴が夜風に吹かれて澄んだ音をたてた。