夕闇を歩く。
次第に暗くなっていく夕暮れ時を泳ぐ。
まるで、海の中を泳ぐように。
光り始めた街灯。
その街灯の光をうっすらと反射するガードレール。
夕焼けを映す自動販売機。
そして、空には夕焼けと真っ白な月。
雑多なイルミネーションが灯り始める。
その隙間隙間に、海水のような暗闇が滲んでいる。
その海水のような暗闇の中に、僅かな迷いが溶け込んでいる。
そっと息を潜めて溶け込んでいる。
まるであたしの様子を見ている小さい魚。
あたしが気づいて目を向けると
すぐに姿を消してそこにいないふりをする。
息を潜めてまたこちらを見ている。
しょうがないから気づかないふりをする。
遠くから車のクラクション。
やがて喧噪は消え去り、風が草木を揺らす音だけが聞こえる。
風がゆっくりと通り過ぎる。
ゆるやかな流れのように。
この流れに乗ればいい。
どこに流れ着いても行き着く先はやっぱり海の中だ。
海の中ならば安心できる。少しだけ。
そう思えば楽になれるかもしれない。
優しい夕闇に包まれながら空を見上げる。
落ちきっていない夕陽。
うっすらと光りはじめる月。
水面を透かして見上げる月のように。
雲に揺らめきながら空に浮かぶ月。
ゆっくりと泳ぐ。
あたしに出来ることはそれぐらい。
だから、ゆっくりと前に進む。
あたしの周りにあるものを眺めながら。
迷いという小さな魚にも気を配りながら。
すべてのものを慈しみながら。
あの月に手を伸ばしながら。
(by 一也)