今夜もアリスは、ベッドの上でバクさんにお話をせがんでいます。
バクさんというのは、アリスの体ほどもある大きなぬいぐるみの名前です。
本当はオオアリクイのぬいぐるみなのですが。
けれども、アリスもバクさんもあまり気にしていません。
アリスはバクさんを夢を食べる動物だと思っています。
バクさんも自分は似たような動物だからいいか、と思っています。
とにかく、アリスは眠れないと、バクさんにお話をせがむのです。
今夜もバクさんは、アリスにお話を聞かせようとしています。
バクさん「今日も眠れない?」
アリス「うん。お話きかせて」
バクさん「そうだなぁ。どんなお話がいいかなぁ」
アリス「うーん、銅像ってあるじゃない?」
バクさん「あぁ、中央公園の噴水の前の」
アリス「ううん、公園だけじゃなくって。いろんな所に立ってるけど、なにしてるの?」
バク「そうだね、今日は鉄でできた騎士のお話をしようか」
アリス「うん」
チビは鉄の街に生まれました。
この街は昔から、とても良い鉄がとれ、そのおかげで栄えていました。
チビは小型犬です。
生まれた時からこの街に親しみ、この街をとても愛していました。
チビの毎日欠かさない日課に、街の見回りがありました。
平和なこの街に異常がないかを自分の足で見て回るのです。
その見回りの途中に中央広場がありました。
中央広場には、鉄でできたとても大きな騎士の像が東の空を見上げていました。
チビはこの鉄の騎士に挨拶を欠かしたことはありません。
チビ「こんにちわ!!」
騎士「おう、チビくん、ごきげんよう」
チビ「今日もいい天気ですね」
騎士「あぁ、とても良い天気だ」
ある日、チビは騎士に聞きました。
チビ「騎士様はなんで東の空ばかり見ているの?」
騎士「昔の話なんだがな、この街に悪いドラゴンが襲って来てな」
チビ「ドラゴンが?」
騎士「左様、そのドラゴンをワシが倒したのだ」
チビ「え?ホント?!騎士様凄い!!」
騎士「だからな。またドラゴンが襲ってきても大丈夫なよう、ワシが東の空を睨んでおるのだ」
チビ「そうなのかー」
騎士「チビくんよ、キミはこの街が好きかな?」
チビ「うん、大好き!」
騎士「ならば、ワシも頑張らねばな」
チビ「僕も頑張る!」
騎士「うん?チビも頑張るのか?」
チビ「僕もこの街を守るんだ」
騎士「そうか、そうか。それはよいな」
それ以来、チビは見回りが終わると、中央広場にやってきて鉄の騎士像の隣に座って東の空を見上げるようになりました。
やがて戦争が始まります。
質の良い鉄がとれる鉄の街はますます栄えるようになりましたが、やがて鉄をとり過ぎたせいか鉄がとれなくなってきました。
国からは武器を作るための鉄を送るようにと言われ続けました。
困った鉄の街の人たちは、いらない鉄を溶かして国に送るようになりました。
チビ「騎士様、足元に立ててあった大きな盾はどうしたの?」
騎士「うん?盾か。盾はなぁ、鉄が必要だという話でな。街の人達が溶かしてしもうたな」
チビ「街を守るための大事な盾なのに、溶かしてしまって大丈夫なの?」
騎士「はっはっはっは。大丈夫だ。ワシもチビも居るからなぁ」
チビ「そっかぁ」
しかし、戦争は長引きます。
ますます鉄が必要になった街の人たちは、今度は騎士の持っていた巨大な槍を溶かしてしまいました。
チビ「騎士様、右手に持っていた槍はどうしたの?」
騎士「うむ。また鉄が必要になったようでな。街の人たちが溶かしてしもうたな」
チビ「大丈夫なのかなぁ」
騎士「大丈夫、大丈夫」
騎士はそう言って笑うのでした。
やがて国は負け、戦争が終わりました。
鉄の街も敵の国に奪われてしまいました。
鉄の街にも見知らぬ兵士たちが大勢入ってきました。
鉄の騎士は「負けない象徴」として扱われていたため、見知らぬ兵士達に引き倒されてしまいました。
チビ「騎士様、大丈夫?」
中央広場に倒れた鉄の騎士に向かってチビが問いかけます。
騎士「さすがにこれは大丈夫とは言えんな」
チビ「騎士様はどうなっちゃうの?」
騎士「ワシはあやつらに嫌われておるからな。壊されるだろうな」
チビ「戦わないの?」
騎士「ワシにはもう盾も槍も残っておらん。それにな、ワシ等はあやつらに負けたのだ」
チビ「そっか…」
騎士「チビよ。頼みがある」
チビ「なに?」
騎士「国は負けても、この鉄の街の人たちは生きていかねばならん」
チビ「うん」
騎士「だが、ワシにはもうこの街を守る事が叶わんようじゃ」
チビ「うん…」
騎士「ワシはお前がこの街を大好きだと言った事を覚えておる。それは間違いないな?」
チビ「うん、間違いないよ」
騎士「ワシの代わりにこの街の人たちを守ってくれぬか」
チビ「わかった!!」
騎士「約束してくれるか?」
チビ「約束するよ!」
その約束をしたの次の日、鉄の騎士はバラバラに壊されてしまいました。
チビは鉄の騎士との約束を守り、鉄の街の人たちを守り続けました。
街の人たちが見知らぬ兵士たちに乱暴を受けると、果敢に立ち向かっていきました。
そしてチビは鉄の街の人たちの独立を助け続け、いつしか英雄と呼ばれるようになりました。
独立を勝ち取った鉄の街の中央広場には、鉄の騎士と鉄の犬の像が並んで街を見守っているそうな。
おや?アリス?
おい、アリス。
なんだ、眠ってしまったのか。
やれやれ。どこまで聞いていたんだが。
まぁ、しょうがないか。
さて、私も寝ることにするかな。