それが全てだと思っていた。
僕の目の前に広がる世界が全てだと思っていた。
冬の夜空を振り仰ぐ。
そこには満天の星が瞬いていて、なんだか怖い思いが押し寄せてくる。
その奈落のような闇に吸い込まれ、落ちていくような感覚にめまいを感じる。
逆さまの世界。星空が奈落で、河面が空。
そんな開けた河原に立ち、ぼんやりとあなたを思っている。
いつか一緒に歩いた道。
いつか一緒に見た景色。
それらのものが全てだと思っていた。
それらの思い出が全てだと思っていた。
それらは過去のものだったのだろうか?
次第に薄れ行く記憶の中で。
あなたの笑顔だけがはっきりと見える。
けれどもそれは。
きっと僕にとって忘れられない笑顔。
何ものにも代え難いあなたの笑顔。
それが蘇ってくる。
それはきっと、過去のものではない。
それだけは分かった。
だから僕は幸せでいられるんだと思う。
流れていく河面に星が写る。
河の中に流れる星達。
寒そうだけれども、決して凍えてはいない。
凛としてはいるけれども、決して冷たいわけではない。
その河面にあなたの姿を写す。
星と一緒にゆらゆらと揺れる。
不安になることだってあるんだよ。
でも、それでもあなたとここにいたことは本当のことだから。
そして冬の星空を振り仰ぐ。
そこには河面と同じように星が揺れている。
空にも河にもきっと星はいるんだね。
大丈夫だよ。
この場所もあなたも忘れないから。
この河面が空になったって忘れないから。
(by 一也)