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アヌビスくんとクヌムくんはエジプトの神様です。
クヌムくんは、エジプトの母なるナイル川の神様。
アヌビスくんは、死者が住む冥界の神様。
生と死を司る二人はとても仲良しなのですが、最近はエジプトの神様として出番も少なく暇なので、日本に遊びに来ているようです。

アヌビス「クヌムくん、何読んでるの?」

クヌム「うん?『メルニボネの皇子』」

アヌビス「おっ、エルリック・サーガ」

クヌム「知ってる?」

アヌビス「うん、マイケル・ムアコックの『エターナル・チャンピオンシリーズ』だね」

クヌム「面白いよねぇ」

アヌビス「名作だねぇ」

クヌム「でもさ。エルリックって、コナンと違って筋肉もりもりじゃないよね」

アヌビス「あぁ、コナン・ザ・グレートの」

クヌム「最近ファンタジーにハマっててさ、コナンも読んだんだけど、全然エルリックとは違うよね」

アヌビス「そうだね、パワフルな感じで剣で敵をなぎ倒して行くという感じではないね」

クヌム「アルビノで病弱だけど、そういうハンデや宿命を背負いながらもそれに抗って戦う姿がかっこいい」

アヌビス「今風ライトノベルな異世界転生モノじゃないところがまたクヌムくんらしいというかなんというか…」

クヌム「ボク等ってさ、一応神様じゃない?」

アヌビス「一応じゃなくても神様だけど」

クヌム「こういうお話の中では、だいたい神様って理不尽なことばっかり言うよね?」

アヌビス「あー。まぁ、たしかに」

クヌム「なんで神様なのに悪者扱いになってるのかなーって」

アヌビス「んー。いろいろあるとは思うんだけど…」

クヌム「いろいろ?」

アヌビス「クヌムくんはほら、水源を司る神様じゃない?」

クヌム「うん」

アヌビス「でも、元々はナイル川の氾濫を司る神様でしょ」

クヌム「うん」

アヌビス「その「氾濫」っていう自然現象は、人間にとっては理不尽の塊なの」

クヌム「でもでも、それって自然なんだから仕方ないじゃない?」

アヌビス「そう。その「自然」っていうのは、人間にとってはどうにもできないこと、そのものなの」

クヌム「あー」

アヌビス「ボクの「死」もまったく同じ。どうにもできないから、畏れ敬う」

クヌム「神様っていうのは「人間にはどうにもできない自然」なのか」

アヌビス「原型はそう。そこに姿かたちや人格がくっついていく」

クヌム 「 後からくっついてくるんだねー」

アヌビス「だから昔の神様には善悪なんて関係ないんだ。善と悪はコインみたいに表裏一体だった」

クヌム「なるほど?」

アヌビス「これが中世になってくると、人間の希望を叶えるための神様に変わっていく」

クヌム「あー。たしかに。……でも、なんでかな?」

アヌビス「当時の人間には希望が必要だったんじゃない?しらんけど」

クヌム「アヌビスくんもよくわかってないの?」

アヌビス「当時の為政者が神様を政治利用したとか、宗教者が権威主義に走ったとかいう話を語らなきゃいけないから」

クヌム「それはめんどくさい」

アヌビス「めんどくさいで済ませていい問題でもないけどねー」

クヌム「でもさー。お話の中には神さまと人との間に産まれた英雄とかも出てくるでしょ」

アヌビス「うん、出てくるねー」

クヌム「あれは純粋な人間だとだめなの?」

アヌビス「 英雄って神様と同じように後からいろいろくっついたものが多いからなー」

クヌム「くっついた?」

アヌビス「例えば、ギリシャ神話の中で有名な英雄、ヘラクレスはギリシアの主神ゼウスとアルクメーネーとの間に生まれた半神半人の英雄だね」

クヌム「うん」

アヌビス「ヘラクレスの伝説は色々あるんだけど、その中でも最大の戦いがギガントマキアだね」

クヌム「12の試練じゃないんだ?」

アヌビス「ヘラクレスは12の試練が一番有名だけど、ギガントマキアは「全宇宙を巻き込んだ神々の大戦争」なんだ」

クヌム「全宇宙!神々の大戦争!!」

アヌビス「このギガントマキアは大地の神、ガイアとオリュンポスの神々の戦いだったんだけど、ガイアはギガースという山よりも大きい巨人を作って戦争に参加させた」

クヌム「山よりも大きい!」

アヌビス「このギガースには、神々では決して倒せないという能力があった」

クヌム「神々でも殺せないって、オリュンポス大ピンチ」

アヌビス「ところが、この能力を逆手に取ったゼウスは「神ではない半神半人の英雄」ヘラクレスを呼んでギガースを全滅させちゃった」

クヌム「ええー」

アヌビス「こんな感じで「神では倒せない巨人を人間の英雄が倒しちゃった」という話が作られた」

クヌム「すごいねヘラクレス」

アヌビス「こんなことをただの人間ができちゃったら、神様の信用がなくなる」

クヌム「 確かに「神様弱いの?」ってなっちゃう」

アヌビス「だから、神様の信用がなくならないよう、神様でさえ倒せなかった巨人は、実は人間ではなく、半神半人の英雄だったということにする」

クヌム「順番が逆じゃない?」

アヌビス「その順番が逆な「設定の後付け」みたいなのがいろいろくっついて、ヘラクレスをただの人間ではないように語り継いで来たんだね」

クヌム「ヘラクレスは本当は人間だったの?」

アヌビス「誰も確かめようがないけどね。「あれだけ強いんだからただの人間なわけがない」という思いがヘラクレスを半神半人にしたのかもって話だね」

クヌム「だからギリシャ神話って半神半人の英雄が多いのかー」

アヌビス「神様もそういう後付の設定を他から持ってきてくっつけちゃう事も多かった」

クヌム「だから色々設定が重なってる神様が多いんだねー」

アヌビス「そう。色々設定をくっつけて、神だけでなく人間も活躍させて、人を感動させるエンタメに仕上がってるのがギリシャ神話の特徴になってるね」

クヌム「エンタメかー」

アヌビス「感動させたいから人間を活躍させる。エンタメだから話を盛る。話を盛りすぎた結果、「あの強さはきっと人間じゃない」ってなるのは面白いよね」

クヌム「なんだか現代のヒーローものに似てるよね」

アヌビス「逆だよ、逆。現代のヒーローものが神話や英雄譚から産まれたものだから」

クヌム「だから時代を超えてヒーローは活躍し続けてるのか」

        (「フンッ!フンッ!」というメジェドの声がする)

クヌム「メジェドくん、筋トレなんかはじめてどうしたの?」

メジェド「 ◯✗△□!」

アヌビス「え?いつの時代も民衆はメジェドを求めているのだ!だって?」

クヌム「求められているのはメジェドくんじゃなくてヒーローだよ?」

メジェド「XXXXXX!!」

アヌビス「ボクこそが時代を超えたヒーローなんだ!だってさ」

メジェド「フンッ」

       (メジェドの筋トレ掛け声)
       (突然、ガシャンという金属音が響く)

クヌム「わーっ!メジェドくんがバーベルに挟まったぁっ?!」

アヌビス「バーベルどかさなきゃ!!クヌムくんそっち持って!!」

クヌム「わかった!!」

アヌビス「せーのー!」

        (ガシャン)

クヌム「わーっ!!メジェドくんごめんっ!!!」

メジェド「キュウ……」