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アヌビスくんとクヌムくんはエジプトの神様です。
クヌムくんは、エジプトの母なるナイル川の神様。
アヌビスくんは、死者が住む冥界の神様。
生と死を司る二人はとても仲良しなのですが、最近はエジプトの神様として出番も少なく、暇なので日本に遊びに来ているようです。

アヌビス「あけまして」

クヌム「おめでとうございます」

アヌビス「今年もよろしく」

クヌム「お願いいたします」

 間。

クヌム「えー、アヌビスくんはお正月はどう過ごしましたか?」

アヌビス「寝正月でした」

クヌム「寝てましたかー」

アヌビス「食っちゃ寝、食っちゃ寝してましたねー」

クヌム「初詣も行かなかった?」

アヌビス「エジプト神のボク達が神社行って、日本の神様を拝んでどうするのさ」

クヌム「今年もよろしくおねがいしますって、お願いするんですよ」

アヌビス「だからなんで」

クヌム「日本に居るんだから、日本の神様に挨拶するのは当然でしょう?」

アヌビス「そういう問題なの?」

クヌム「日本の神様に嫌われたら、日本じゃ生きていけないかもしれないじゃない」

アヌビス「ボク達、エジプト神なのに?」

クヌム「あいさつは大事ですよ」

アヌビス「まぁ、大事だけどさ」

クヌム「あいさつしてこなかったって事は、今年はダメかもね」

アヌビス「何がダメなんだよ」

クヌム「よろしくお願いされないってことです」

アヌビス「よろしくお願いされなかったらどうなるの?」

クヌム「だから、日本じゃ生きていけないんです」

アヌビス「死ぬってこと?」

クヌム「そう」

アヌビス「エジプトじゃ死者の魂を秤にかけてるボクが?」

クヌム「……そう」

アヌビス「日本で死んじゃったら、ボクの魂は日本の黄泉の国に行くの?それともエジプトの死者の国に行くの?どっち?」

クヌム「そりゃぁ……日本の黄泉の国じゃないのかな」

アヌビス「日本の神様を信仰しているわけじゃないのに、死んだら黄泉の国に行くっておかしくない??」

クヌム「じゃ、じゃぁ……エジプトの死者の国に行くんじゃないかな」

アヌビス「エジプトの死者の国で、ボクの魂を秤にかけるのは誰なのさ」

クヌム「……アヌビスくん?」

アヌビス「自分で自分の魂を秤にかけるの???」

クヌム「もう、アヌビスくんはめんどくさいなぁ」

アヌビス「めんどくさい話にしたのはクヌムくんだろ」

クヌム「むー……」

 間。

クヌム「魂の在り処ってことだね」

アヌビス「うん?」

クヌム「死ぬと魂は信仰の場所へと運ばれる」

アヌビス「正確には信仰の中の死者の国に運ばれるね」

クヌム「ということは、魂の在り処は国にはない」

アヌビス「そうね。信仰の中にあるね」

クヌム「でもさ、日本人は信仰を失ったって、よく言われるじゃない?」

アヌビス「よく言われてるね。無神論者が多いとか」

クヌム「だったらなんでみんな当然のように初詣に行くんだろうね?」

アヌビス「あれはお願いしに行くんだよ」

クヌム「お願いしに行くだけ?」

アヌビス「そう。『困った時の神頼み』って言ってね。困った時にだけ神様にお祈りするんだってさ」

クヌム「じゃぁ、困った時にだけ信仰が発生するんだ」

アヌビス「発生しないでしょ」

クヌム「なんで?」

アヌビス「信仰ってそんな都合の良いものじゃないから」

クヌム「そうだっけ?」

アヌビス「信仰は日常の中に溶け込んでこそ、信仰なんだよ」

クヌム「日常の中にねぇ」

アヌビス「日常の中で何者かに感謝することから信仰は始まるんだ」

クヌム「ボク達って感謝されてたっけ」

アヌビス「キミはナイル川の神だから、豊かな土を運んできてくれて、おかげで穀物が育ってありがとうって感謝されてたはず」

クヌム「アヌビスくんは?」

アヌビス「畏れられてたりすることが多かったけど、その反面、朝起きた時に『まだ死んでなかったー』っていう感謝があったかな」

クヌム「なるほど、ボクもナイル川の洪水って意味では恐れられてた」

アヌビス「畏れと感謝は表裏一体だね」

クヌム「畏れがあるからこそ、感謝の気持があったわけだね」

アヌビス「昔は日常の中に、わりと普通に死があったから、そのぶん日常の中にも感謝があったんじゃないかな」

クヌム「いまは死がわりと非日常のものになっているから、神への感謝も信仰も薄れがちになってしまっているわけだね」

アヌビス「まぁ、それでも形だけでも残っているから、信仰が完全に死に絶えたわけでもないとは思うけどね」

クヌム「だからボク達もまだ消えていない、と」

アヌビス「忙しくもなくなって、のんびり暮らしてる、と」

クヌム「のんびり余生を過ごしているみたいだ」

アヌビス「神という概念が死なない限り、死なないんだろうけどね」

クヌム「そういえば、死者の魂を横取りしようとする者をやっつけるのがメジェドくんだったっけ」

アヌビス「そうだね。目からビームを発射して、死者の魂を横取りしようとする者を焼き殺すとか言われてるね」

クヌム「ビームが出るんだ」

アヌビス「出るみたいだね」

クヌム「メジェドくんはどこ?」

アヌビス「ビーム見せてもらうの?」

クヌム「寒いからさ。焚き木に火をつけてくれないかなって思って」

アヌビス「なるほど、さっきまでその辺をフラフラ歩いてた気がするんだけど」

クヌム「うわっ!?」

アヌビス「どした?」

クヌム「なんか踏んだ!むにって……」

アヌビス「うわあああ、メジェドくんどうした!?」

クヌム「えっ?」

アヌビス「踏んでる!クヌムくん、メジェドくんを踏んでる!」

クヌム「うわああああ!」

アヌビス「メジェドくん!だいじょ……うっわ、酒くっさ!!」

クヌム「酔っ払って寝てるのか……」

アヌビス「なんでこんなところで寝るんだよ、もう……」

クヌム「どうする?これ」

アヌビス「こんなとこじゃ風邪ひくでしょ。運び込むしかないよ」

クヌム「だよね……」

アヌビス「あ、起きた……」

メジェド「(意味不明の言葉)」

 ビーム音。爆発音。

アヌビス&クヌム「うわああああああああああああ」