今夜もアリスは、ベッドの上でバクさんにお話をせがんでいます。
バクさんというのは、アリスの体ほどもある大きなぬいぐるみの名前です。
本当はオオアリクイのぬいぐるみなのですが。
けれども、アリスもバクさんもあまり気にしていません。
アリスはバクさんを夢を食べる動物だと思っています。
バクさんも自分は似たような動物だからいいか、と思っています。
とにかく、アリスは眠れないと、バクさんにお話をせがむのです。
今夜もバクさんは、アリスにお話を聞かせようとしています。
バクさん「今夜も眠れないのかい?」
アリス「うん、怖くて眠れないの」
バクさん「何かあったの?」
アリス「おっきなカラスがね、ずっとアリスを見てたの」
バクさん「カラスか。何もされなかった?」
アリス「うん、じっとアリスを見てただけ」
バクさん「アリスの髪飾りを見てたんじゃないかな」
アリス「そうなの?」
バクさん「カラスはキラキラ光る物を探すのが好きだからね」
アリス「そうなんだ?」
バクさん「うん。それじゃぁ、今夜はカラスのお話をしてあげよう」
アリス「うん」
カラスは海の近くに住みつきました。
海には色んなものが流れ着くので、カラスはその中から材料を拾い集めて巣作りをはじめました。
木の枝、海藻、大きな葉っぱ。
流れ着いた色んな物の中から、よさそうなものを見つけ、巣へ運びます。
カモメがそれを見て、カラスに話かけました。
カモメ「そんなものを拾って何をしているんだい?」
カラス「巣を作るんだ」
カモメ「巣を?」
カラス「うん」
カモメ「そんなガラクタで?」
カラス「色んなもので巣を作ると面白いんだよ」
カモメ「草や小枝じゃダメなの?」
カラス「ダメじゃないけどさ」
カモメ「こんなガラクタよりも海に行って魚を獲って来た方が良いのに」
カラス「まぁね」
カラスはカモメの言葉にうなづきましたが、海岸に打ち上げられた物で巣を作る事をやめることはありませんでした。
嵐の過ぎ去ったある朝のことでした。
カラスがいつものように海岸に流れ着いた物を見ていると、光るものが目に入りました。
カラスが近づいてみると、それは透明な瓶でした。
瓶の中には紙が入っているのが見えます。
その紙には何かが書かれているようでした。
「何が書いてあるんだろう」
カラスは紙に書いてある事が気になって仕方がありません。
どうやって中の紙を取り出そうか悩んでいると、カモメがやってきました。
カモメ「どうしたんだい?」
カラス「瓶の中にある紙に何かが書いてあるみたいなんだ」
カモメ「なんだろう?取り出せないのか」
カラス「石を落とせば瓶を割れるかな?」
カモメ「なるほど」
カラスは瓶を地面に置いて、石を上から落としてみました。
瓶は割れて、中から紙が飛び出しました。
カラスが紙を広げてみると、そこには『助けて』と書かれていました。
カラス「助けなきゃ」
カモメ「でも、誰を助けるの?」
カラス「わからない。だけど助けてあげなきゃ」
カラスとカモメは海岸を探しましたが、あるのはガラクタばかりで、誰も倒れていませんでした。
カモメ「誰もいないみたいだね」
カラス「でも、助けを待っているんじゃないかな」
カモメ「いや、もう死んじゃってるかもね」
カモメはそう言って、海に魚を獲りに行きました。
カラスは日が暮れるまで海岸で助けを呼んだ誰かを探していました。
次の日の朝。
カラスは灯台の上から海を見つめていました。
すると、海に浮かぶキラリと光るものを見つけたのです。
カラスは慌てて海に向かい、光るものを拾ってきました。
海に浮かんでいたのは昨日と同じ形をした瓶でした。
瓶には昨日と同じように『助けて』とだけ書かれた紙が入っていました。
しかし、やっぱり助けを求めている者は見つかりませんでした。
そして次の日の朝。
カラスは海岸でネズミを見つけました。
『助けて』と書いた紙を握りしめて、ネズミは冷たくなっていました。
カラスがネズミを見つめていると、カモメがやってきました。
カモメ「そうか。ダメだったんだね」
カモメは波打ち際で揺れるネズミを見てそう言いました。
カラス「ぼくがもう少し、はやく見つけてあげられたなら」
カモメ「それは違うよ」
カモメは、はっきりとカラスのつぶやきを否定しました。
カモメ「このネズミは、死んでしまってここに打ち上げられたのかもしれないんだから」
カラス「それでも、ぼくは彼を助けたかったんだ」
カモメ「それは確かにそうだね」
カモメは海を見つめながらそう言いました。
カラスは光るものを探し続けます。
来る日も来る日も。
カラスは灯台の上から海を見つめます。
助けられなかった誰かを助ける為に。
こうして、カラスは光る物を探すようになったそうだ。
おや?アリス?
おい、アリス。
なんだ、また途中で眠ってしまったのか。
まぁ、しょうがないか。
さて、私も寝ることにするかな。