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今夜もアリスは、ベッドの上でバクさんにお話をせがんでいます。
バクさんというのは、アリスの体ほどもある大きなぬいぐるみの名前です。
本当はオオアリクイのぬいぐるみなのですが。
けれども、アリスもバクさんもあまり気にしていません。
アリスはバクさんを夢を食べる動物だと思っています。
バクさんも自分は似たような動物だからいいか、と思っています。
とにかく、アリスは眠れないと、バクさんにお話をせがむのです。
今夜もバクさんは、アリスにお話を聞かせようとしています。

バクさん「今日も眠れない?」
アリス「うん。お話きかせて」
バクさん「今日はどんなお話がいいかなぁ」
アリス「フクロウさん」
バクさん「フクロウ?」
アリス「今日は森でフクロウを見かけたの」
バクさん「フクロウは森の番人って言われてるからね」
アリス「そうなの?」
バクさん「うん、そして知恵の神様の使いでもあるんだ」
アリス「へぇー」
バクさん「じゃぁ、今日はそんなフクロウの話でもしようか」
アリス「うん」


男は砂漠を歩いていました。
もう、何日も果てしなく続く砂漠を水を求めて歩いていました。
男が住んでいる街は、砂漠の片隅にありました。
ほんの何年か前まではとても豊かな街でした。
街の中心にある井戸から水が溢れていました。
人々は井戸を中心に豊かな暮らしをしていました。
しかし、その井戸が枯れてしまったのです。
男は水を求めて街を出ました。
水を求めて砂漠を歩きます。

砂。砂。砂。
何日歩いても、見えるのは砂だけです。
風に吹かれて、山のように高くそびえ立つ黄色い砂。
容赦なく照りつける太陽。
他には何も見当たりません。
人も、動物も、誰も、何も居ません。

砂。砂。砂。
ただ風がびょうびょうと音を立てて男の横を通り過ぎていきます。
次の日も、またその次の日も、見えるのは砂だけ。
それでも男は水を求めて歩き続けました。
夜になると、ところどころに突き出ている岩の陰に入って眠ります。
風に飛ばされる砂の上で眠ってしまうと、砂の中に埋もれてしまうのです。

ある晩のことでした。
眠っていた男が目を覚ますと、岩の上にフクロウが止まっていました。
フクロウは男をじっと見つめていました。
男が起き上がってもフクロウは男を見つめたまま動きません。

「おい、僕に何か用なのかい?」

男が尋ねると、フクロウは男から目を逸らし、西の方を見つめました。

「あちらの方角に、2日ほど歩けば水がある」

フクロウははっきりとそう喋りました。
男は喋るフクロウに驚きました。
しかし、それ以上に水があるという言葉に驚きました。

「なぜ僕にそれを教えてくれるんだい?」

フクロウは返事をせず、そのまま飛び立って行ってしまいました。
男はしばらく西の方を見つめていましたが、明日のことを考えてまた眠りました。

次の朝、起きると男は西を目指しました。
男はフクロウが喋った昨夜の出来事を夢かとも思いました。
しかし、あれが夢だとしてもお告げかもしれないと考えたのです。
男が西に向かって歩いて2日ほど経った頃、オアシスが見えました。
男は大喜びでオアシスの泉に飛び込み、乾いた身体を潤わせました。

「私が言った通りだったろう?」

男が声に振り返ると、泉のほとりに立つヤシの木にあのフクロウが止まっていました。

「お前はこの前、このオアシスを教えてくれたフクロウなのか?」
「そうだ」

男はあれが夢ではないことと、やっぱりフクロウが喋ることに驚きました。
しかし、それよりもフクロウがなぜオアシスの事を教えてくれたのかわかりませんでした。

「なぜこのオアシスを教えてくれたんだい?」
「これから先、この土地は乾いていく一方だ」
「この土地?」
「そう。この土地一帯だ。お前の街の井戸も枯れてしまった」

フクロウはそう言って、男の住んでいた街の方を見つめました。

「やがてすべてのものが、砂に飲み込まれてしまうだろう」
「そんな……」
「それでは私達も困るのだ」
「私達?」
「そう。困るのは人々だけではない。私達も生きてゆけなくなる」
「だから僕にこのオアシスを教えてくれたのかい?」

フクロウはその問いには答えず、男の顔を覗き込みました。

「お前には選ぶ事ができる」
「選ぶ?何を?」
「この場所を選ぶのか、それとも水を選ぶのか」
「場所?水?どういうことだい?」
「お前は、ここに住むことができる。水も豊富にあるこの場所を選ぶ事ができる」
「このオアシスに住めばいいのか」
「だが、お前は一人だ。たった一人でここに住むことになる」
「一人で……」
「もうひとつの水はこれだ」

フクロウはヤシの枝から飛び、泉のほとりに降り立ちました。

「これを見ろ」

男はフクロウのそばに流れる水を見ました。

「これは……」

泉から湧き出た水は赤い石で組まれた細い溝を通り、砂に吸い込まれずにどこかへと流れていた。

「お前がここに来るのか、それともお前がここから水を運ぶのか。それを決めるがいい」
「なぜそれを僕に決めさせようとするのですか」
「お前がただひとり、水を求めて砂漠へと歩き出した勇気ある者だからだ」

男は考え込みました。
このオアシスには水も食料もあり、生活するには十分なようでした。
このまま移り住んでも問題なく、それはとても楽なように思えました。
しかし、水を運べば街の人たちも助かるのではないのか。
男はそう思いました。

「この溝を見せたということは、この石でできた溝を使って水を運ぶ方法を教えてもらえるということでしょうか」
「そうだ」
「この溝を使えば、僕の住んでいた街に水を引き入れることができるということですね」
「その通りだ。水が漏れない石の作り方も教えよう」
「僕にそれを教えて下さい」
「いいだろう」

フクロウは首をかしげて男に微笑みかけたようだった。
その瞬間、男は自分が正しい選択をしたことを知った。

こうして男が住んでいた街は、近くを流れる川から水を引き入れることができるようになった。
水を引き入れるだけではなく、街に水路を作り、そこに水を通すことによって穀物が育つようになった。
男はフクロウから学んだ事を周囲の街に伝えて、その砂漠では今でも水に困るようなことはなくなったそうだ。


おや?アリス?
おい、アリス。
なんだ、眠ってしまったのか。
まぁ、しょうがないか。
さて、私も寝ることにするかな。