今夜もアリスは、ベッドの上でバクさんにお話をせがんでいます。
バクさんというのは、アリスの体ほどもある大きなぬいぐるみの名前です。
本当はオオアリクイのぬいぐるみなのですが。
けれども、アリスもバクさんもあまり気にしていません。
アリスはバクさんを夢を食べる動物だと思っています。
バクさんも自分は似たような動物だからいいか、と思っています。
とにかく、アリスは眠れないと、バクさんにお話をせがむのです。
今夜もバクさんは、アリスにお話を聞かせようとしています。
バクさん「今日も眠れない?」
アリス「うん。お話きかせて」
バクさん「今日はどんなお話がいいかなぁ」
アリス「今日はね、海に行ったの」
バクさん「海かぁ」
アリス「高い所に塔があったわ」
バクさん「塔?」
アリス「夜になると光るんだって」
バクさん「あぁ、なるほど、それは燈台というやつだね」
アリス「そう!燈台って言うんだって」
バクさん「それなら今日は燈台の話をしようか」
アリス「うん」
その島は楽園と呼ばれていました。
陸から遠く離れた、小さな島でした。
切り立った崖に囲まれ、人が近づくことのできない島でした。
島には色んな動物が住んでいました。
近くの海にも、色んな魚が住んでいました。
島には人魚が住んでいました。
人魚は毎日のように鳥や魚と楽しく会話しながら過ごしていました。
ある日、壊れた船と一緒に一人の男が島に流れ着きました。
男は気を失っていましたが、死んではいませんでした。
人魚は自分の住処である崖の洞窟に男を連れていき、傷を癒してあげることにしました。
人魚の介抱の甲斐もあり、男は数日もすると目を覚ましました。
男「私は助かったのか」
人魚「はい、島の岸に打ち上げられていました」
男「あなたが助けてくれたのか」
人魚「はい」
男「ありがとう」
起き上がった男は、あちこち痛む身体を確かめながら周囲を見回しました。
ごつごつとした岩が突き出した洞窟の岩肌が見えます。
男「ここはどこだ?」
人魚「大陸から遠くはなれた『楽園』と呼ばれる島です」
男は慌てて立ち上がろうとしてよろけました。
人魚は慌てて男を支えました。
人魚「まだ歩けるほど回復していないわ」
男「私は不老不死の薬草を持ち帰らなければならない」
人魚は男を落ち着かせ、話を聞く事にしました。
男は大陸のある国の王に仕えていました。
しかし、男が仕えていた王は病に倒れてしまいました。
王は男に不老不死の薬を探してくるように言いました。
男は楽園と呼ばれる島にある不老不死の薬草を知っていました。
しかし、楽園の薬草を取りに行って帰って来た者はいませんでした。
男が王にその事を言いましたが王は男の両親を殺すと脅しました。
男は仕方がなく楽園へ向かって船を出しました。
しかし、男の船は嵐にあい、楽園へと流されてきたようでした。
男「私は薬草を手に入れて国に帰らなければならない」
人魚「家族の事が心配なのは分かりますが、まずはあなたの身体を治さないと」
人魚は男を説得し、まずは自分の身体の回復に務めるよう言い聞かせるのでした。
しばらくすると男は回復し、歩けるようになりました。
人魚は男を甲斐甲斐しく介抱し、二人は親しくなっていきました。
人魚は自分が人間ではないことを打ち明けましたが、男はあまり気にしていないようでした。
男は歩けるようになると、島の中をくまなく探し回り、財宝と薬草を手に入れました。
しかし、船は壊れているので帰る方法がありません。
男は島の木々を使って船を作り始めました。
人魚は男が国に帰ろうと船を作っている様子を見て、寂しくなってしまいました。
人魚「どうしても帰らなければならないのですか?」
男「私が帰らなければ、両親が王に殺されてしまうのだ」
男も人魚と離れるのはつらいようでした。
やがて男は船を完成させます。
男は船に財宝と薬草を積み込み、人魚に約束しました。
男「王に不老不死の薬草を届け、両親に財宝を渡して親孝行をしたら必ず戻る」
男はそう言って国へと帰っていきました。
人魚は男がいつ島に戻ってきてもいいように目印として崖の上に火を灯しました。
人魚は毎晩火を灯します。
男が無事に戻ってくる事を祈りながら。
人魚は毎晩火を灯します。
男が迷わず島にたどり着けるように。
しかし、男は財宝の持ち主だった龍に襲われました。
男の手作りの船は、龍のしっぽで粉々にされました。
財宝も薬草も男も海の中へと沈んでしまいました。
人魚にそれを知る術はありませんでした。
人魚は毎晩火を灯します。
男が無事に戻ってくる事を祈りながら。
人魚は毎晩火を灯します。
男が迷わず島にたどり着けるように。
おや?アリス?
おい、アリス。
なんだ、眠ってしまったのか。
このお話もどこまで聞いていたんだが。
まぁ、しょうがないか。
さて、私も寝ることにするかな。