アヌビスくんとクヌムくんはエジプトの神様です。
クヌムくんは、エジプトの母なるナイル川の神様。
アヌビスくんは、死者が住む冥界の神様。
生と死を司る二人はとても仲良しなのですが、
最近はエジプトの神様として出番も少なく、
暇なので日本に遊びに来ているようです。
アヌビス「屋根よーりーたーかーいー鯉のーぼーりー」
クヌム「アヌビスくん、何してるの?」
アヌビス「アレだよ」
クヌム「アレ?」
アヌビス「上、上」
クヌム「うえ?……うわぁ。お魚さんだぁ!」
アヌビス「うん、鯉だよ」
クヌム「鯉?」
アヌビス「鯉のぼりっていうんだ」
クヌム「なんで鯉をあげてるの?」
アヌビス「もうすぐ子供の日だからね」
クヌム「子供の日だから?」
アヌビス「大空を悠々と泳ぐ鯉のぼりのように、大きく元気に育って欲しいと願いながらみんなでお祝いする日なんだよ」
クヌム「なるほどー」
間。
クヌム「なんか空で泳いでいるみたいだね」
アヌビス「そうそう。空を泳いでいってるんだよ」
クヌム「どこに行くのかな」
アヌビス「……天かな?」
クヌム「天?」
アヌビス「うん、鯉は天に登って龍になるんだって」
クヌム「龍かー」
アヌビス「面白いよねー」
クヌム「でも、鯉と龍って全然違うくない?」
アヌビス「似てるから天にのぼって龍になるって言われるようになったんじゃないの?」
クヌム「えー?似てるかなぁ」
アヌビス「ほら、口の横にヒゲがあるじゃない」
クヌム「ええっ?そこ???」
アヌビス「きっとそうだよ」
クヌム「いや、似てないよぉ」
アヌビス「背びれも長いしさ」
クヌム「背びれとヒゲかぁ」
アヌビス「そうそう」
クヌム「なんで龍になるんだろう?」
アヌビス「いや、だから似てるからじゃない?」
クヌム「そうじゃなくてー」
アヌビス「そうじゃなくて?」
クヌム「龍になるとなんかいいことあるの?」
アヌビス「そりゃぁ……かっこいい?」
クヌム「そりゃかっこいいけどさ」
アヌビス「まぁ、かっこいいってのは置いといてさ」
クヌム「うん」
アヌビス「日本や中国では、龍を神聖なものだとしてるからかな」
クヌム「西洋ではだいたい悪いヤツだよね」
アヌビス「そうだね」
クヌム「なるほどねー」
アヌビス「それと同時に強かったり凄い能力、神通力を持ってたりするね」
クヌム「龍って凄いんだね」
アヌビス「だから鯉が天にのぼって龍になるみたいに、子供にも大人になってすごい人になりますようにってね」
クヌム「子供が龍になるんだ」
アヌビス「大陸の方では、まだ才能に目覚めていない才能のある人を伏龍とか臥龍とか言ったりするしね」
クヌム「そういう願いも込められているんだねぇ」
間。
クヌム「大きい真鯉はお父さん♪」
アヌビス「小さい緋鯉は子供たち♪」
クヌム「ってさぁ、お父さん真鯉は大人になってるはずなのに龍にはなれなかったの?」
アヌビス「それは……」
クヌム「お父さんは龍になれなかったかー。だから子供には立派になって欲しいってことか」
アヌビス「家族仲良く大空を舞うことが大事にされた時代もあったっていうことなんだよ……」
クヌム「ふーん……」
間。
クヌム「今日は風が強いねぇ」
アヌビス「そうだねぇ」
クヌム「鯉のぼりも風に吹かれて気持ちよさそうに泳いでるねぇ」
アヌビス「うん、楽しそうだよね」
クヌム「洗濯物もよく乾きそうだ」
アヌビス「さっき、干してきたよ」
クヌム「だからって鯉のぼりと一緒にTシャツを干さなくてもいいんじゃない?」
アヌビス「うん?鯉のぼりと一緒に干してはないよ?」
クヌム「だってほら、緋鯉の下に白いTシャツが……」
アヌビス「え?」
間。
アヌビス「あれ、Tシャツじゃないみたいだ」
クヌム「え?じゃぁ、あれはなに?」
アヌビス「メジェド……」
クヌム「あぁ……メジェドくんなにやってんの?」
アヌビス「さぁ……」
クヌム「楽しそうだからほっとくか」
アヌビス「そうだね」
突風の音。
アヌビス&クヌム「うわっぷ」
クヌム「あっ!」
アヌビス「どうしたの?」
クヌム「メジェドくんが飛んでった!!」
アヌビス「うわー!!」
クヌム「助けに行かなきゃ!!」
アヌビス「メジェドくーん!」
クヌム「メジェドくーん!」