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今夜もアリスは、ベッドの上でバクさんにお話をせがんでいます。
バクさんというのは、アリスの体ほどもある大きなぬいぐるみの名前です。
本当はオオアリクイのぬいぐるみなのですが。
けれども、アリスもバクさんもあまり気にしていません。
アリスはバクさんを夢を食べる動物だと思っています。
バクさんも自分は似たような動物だからいいか、と思っています。
とにかく、アリスは眠れないと、バクさんにお話をせがむのです。
今夜もバクさんは、アリスにお話を聞かせようとしています。

バクさん「今日も眠れない?」
アリス「うん。お話きかせて」
バクさん「そうだなぁ。どんなお話がいいかなぁ」
アリス「さっきね、お星さまがとっても綺麗だったの」
バクさん「そっかぁ。それなら、夜のお空に架かる橋のお話はどうかな」
アリス「うん!それがいい!」
バクさん「じゃぁそのお話をしよう」


とある森の外れに仲の良い夫婦が住んでいました。
夫は森で猟をして、妻は機を織って
二人で静かに暮らしていました。
森の中には神様が住んでいました。
夫は毎日、森の神様に感謝と供物を捧げて猟をしていました。
供物の中でも神様のお気に入りは、妻が織った素晴らしい絹でした。
神様は絹を身にまとい、森の中で踊るのが大好きでした。

平和に見えた二人の暮らしにも戦争の陰が近づいてきました。
夫は猟師としての腕を見込まれて、隣国との戦争に行くことになりました。
妻は夫が無事に戻ってくる事を森の神様へと祈りました。
祈りを込めて絹を織り、それを森の神様へと捧げました。

妻「どうかあの人が無事に戻ってきますように……」

妻は毎日のように祈りながら絹を織ります。
森の神様は捧げられた絹を手に取り、戦場に行った夫の無事を見守るのでした。

ある日、妻は夫が危険な目にあっている夢を見ました。
夢の中で夫は敵に囲まれて逃げ遅れていました。
妻は慌てて森の神様を祀った祠に行きました。

妻「お願いです。あのひとを助けてください」

妻は森の神様にお願いをしました。

夫は空を見ていました。
しかし、妻も見上げている星はここからは見えません。
何日も雨が降り続いていて、地面はぬかるみ、視界も悪い最悪の戦場でした。
自分が敵兵に囲まれていることは分かっていました。
生き残ることができるとも思っていませんでした。
彼は妻と静かに暮らしていた平和な日々を思い出していました。

夫「あぁ、もう一度、あの静かな暮らしに戻りたい……」

周囲に足音が響き、最後の時が近づいて来ようとしていました。
その次の瞬間、奇跡が起きました。
突然、川の上流から濁流が襲いかかってきたのです。
何日も降り続けた雨は鉄砲水を引き起こしました。
濁流は戦場のすべてを飲み込み、押し流そうとしました。

夫は突然、雲が晴れて星空が広がるのを見ました。
その星空から白い絹が夫に伸びてきました。
夫は必死にその絹にしがみつきました。
星空から降りて来た絹は、先が妻の姿となって夫を濁流からすくい上げたのでした。

夫「あぁ、これは夢なのか」

妻「いえ。森の神様が助けてくれたのです」

二人は絹に乗って、無事に森へと帰ることができたのです。
星空を割くようにして森と戦場を繋いだ白い絹は、天の川として今も星空で輝き続けています。


おや?アリス?
おい、アリス。
なんだ、眠ってしまったのか。
やれやれ。どこまで聞いていたんだが。
まぁ、しょうがないか。
さて、私も寝ることにするかな。