赤は嫌いだった。 私を置いて逝ったあの人の身体を覆っていた、その色の意味を知っているから。 黒は嫌いだった。 私の心をじわりじわりと支配していく、何処までも続く闇に似た、孤独な色だから。 だから。 だから、白い花を摘んで […]
Read More同じ姿勢で座り続けていたせいか、体が重かった。 時計を見れば、丁度昼寝には絶好の時間。 勿論そんな余裕はないのだが、道理で体が休養を欲している筈だ、と納得する。 大きく伸びをすれば肘の関節が小さく鳴って、苦笑が漏れた。 […]
Read More幼少の砌より病がちで、事ある毎に臥せっていた。 伏して熱にうなされ、熱にうなされながらも夜半過ぎに目が覚める。 覚めたその視線の先には、夢か幻かは良くはわからないのだけれど。 間違いなく人に在らざる者が見えていた。 わた […]
Read More「久しぶりだね」 俺はグラスを棚から取り出しながら彼女に言った。 「えぇ」 彼女は微笑みながらソファに座ってくつろぐ。 「何年ぶりだろうな」 「そうねぇ、何年ぶりくらいかなぁ」 「缶ビールしかねぇな……」 「うん、いいよ […]
Read More今夜もアリスは、ベッドの上でバクさんにお話をせがんでいます。 バクさんというのは、アリスの体ほどもある大きなぬいぐるみの名前です。 本当はオオアリクイのぬいぐるみなのですがアリスもバクさんもあまり気にしていません。 アリ […]
Read More男 「やーれやれ、ようやく終わったかな?」 女 「あぁ……」 男 「とりあえず、生き延びたな。お互いに」 女 「辛うじて、ね」 男 「お互いボロボロだよなぁ」 女 「そうだな……この国も随分と荒れてしまった」 男 「そう […]
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